アキレス腱タウロス物語.vol2
「危ない!!!!!!!!!!!!」
その声を最後に、俺はこの事故のことを覚えていない。
次の瞬間、目に入ったのは泣き崩れる家族と白い天井。
「大知が目を覚ましたわ!!!!!!」
体が動かない。何が起こったのだろうか、口を開きたくても開かない。
「あぁ俺は事故にあったのか」
ぼんやりとそう思ったことを覚えている
「どうして競馬場で自分も走ろうとしたの?」
母親からのその一言に全てを思い出した。
俺はあの日、脳筋の丈ってやつとヤニカスアル厨の小林ってやつと競馬に行ったんだ。
「じゃん負けが競馬場入って馬と勝負するのおもろない?」いつものように小林が口を開く。あの日皆、大負けで気が張っていた。
「小林、その提案やるにゃあ」
丈が何も考えずに賛同するのもいつものことだ。
「最初はグー!!!!!!じゃんけん…」
俺が負けた。まぁでも本当にやるとは思ってなかったし笑っていた。
馬の入場だ。よーい…スタート!!
その瞬間、俺は背中を押された。後ろを振り返ると驚く小林とニヤニヤしている丈がいた。
「ポーン」自分の下半身が歪む感覚がわかる。痛い。くるぶしの辺りがズキズキする、
あぶなーいと叫ぶ観客の声。そこで俺の記憶は途切れている。
これが中3の冬、そして今高校の四月になるわけだ。賢明なリハビリの末、歩けるようにはなったがアキレス腱だけは治らなかった。
これがその時の写真だ。心なしか悲しい笑顔だ
ずっとキレたままだ。だからサッカーもできない。なんども自分の運命を呪った。
その度に丈の言葉が頭をよぎる。
「アキレス腱なんかキレとってもいい!
人生は冒険や!!!!!!」
この言葉に何度励まされたか。だから今俺は
高校に通えるのだ。リハビリするきっかけをくれた丈には感謝してもしきれない。
そんなことを思い出しながら部活の勧誘をくぐり抜ける。俺に部活は無理だ。
軽音部野球部サッカー部バレー部、、、、皆が笑顔で勧誘している。俺には眩しい。
だがその奥で、ひっそりと、ボロボロの看板で勧誘している部活がある。
「…アキレス腱部…?」
俺は思わず足を止めた。
ー俺の熱い三年が幕を開ける